修復にはいくつか工程があり、完成に至るまで少々お時間をいただきます。ご依頼をされる方はどのように修理・修復されるのか興味を持たれる方、また知っておきたいという方もいらっしゃるかと思います。工程をゼロから順を追って説明します。

1) 状況確認

まず、修復するものの状態を確認して記録の写真を撮影します。報告書を作成する必要のあるもの。例えば 美術館・博物館では、修復の記録も作品と共に保存していくということが当たり前になりました。

話しが逸れますが、破損事故で保険請求などの処理がある場合も報告書が必要となることが多いです。※特に記録のご要望がない限り、ビフォーとアフターだけ撮影しています。

破損が明らかな部分。割れ、カケ、ヒビを確認します。割れているものは破片の数を数え、修復中に紛失しないように管理をします。透明のプラスチックボックスやチャック付きの小袋に入れて管理します。破片同士は重ねません。破片は出来る限り修復に使います。小さいからと言って捨ててしまう方がいますが、出来る限り取っておいてください。これは、とても重要です。修復を依頼するにしろ、自分で直すにしろ、一つ一つを個別に破片を扱うようにしてください。破片に直接セロテープを付けて本体に貼り付ける人がいますが、これはNGです。破片の小口、縁が脆くなっており、セロテープ剥がず時に一緒に剥がれて来てしまうことがあります。小さな破片を取っておく。破片は丁寧に扱うようお願いいたします。

割れやカケの場合は破損面がどのような状況になっているか、確認します。脆くなっているものは、次のクリーニング(洗浄)の方法を決定する時に考慮に入れます。

ヒビの状況はヒビから汚れが入って、グレーや茶色くなっているものは確認しやすいですが、見えにくい透明のヒビのようなものも注意します。ヒビは扱いによよって、ヒビが大きくなることがありますので、注意が必要です。

自己流で接着剤をつけてしまっている場合、ほとんどのものが薬品で除去できるのですが、どんな接着剤でつけたか分かる場合はお知らせいただくと助かります。

ちなみに金継ぎの場合、本漆は胎土に染み込んでしまい、表面的に剥がすことはできてもシミが残ってしまうことがあります。金継ぎが気に入らなくて、やり直しをしたい…という場合、修復が不可能となることもあります。本漆はメリットばかりではなく(だからダメであると言うつもりは全くありません。)修復の世界で一番大切とされている「可逆性」の点からいうとデメリットではあります。本漆でないもので代用している場合の方が、陶磁器にとっては優しい修理です。

注意すべきなのは、明らかにキズである部分以外にもあります。

新しいものやワンオーナーのお品は修復履歴が明白ですが、骨董、古美術品などは、現在にいたるまでに持ち主が変わっている場合、修復されていることがあります。金継ぎのように、明らかに修復痕が分かるものは良いのですが、共直し(共継ぎ)で綺麗に直してあって、修復痕がわからなくなっているものに注意します。修復した部分は強度的には、陶器や磁器のようになることはありません。陶磁器とは違う性質のもので補うからです。

修復部分は、次のクリーニング(洗浄)の工程で剥がれてしまいますので、しっかり調べる必要があります。

調べ方ですが、目視と手触りで違和感がないかを調べます。紫外線ライト(UV)を当てて確認する業者さんも多いですが、修復の経験が多くなると感覚で違和感を察知することができます。

修復の部分はほとんどが合成樹脂であるので、陶磁器本来の感じと比べて、少し暖かい感じがします。指先で触ってみると良いのですが、感じられない人は、舐めてみる、つまり舌先を使って調べるという業者さんもいました。他の業者さんは、10円玉で擦ってみる、ということもおっしゃいましたが、硬貨で擦るのは修復部分に傷がつくのでおすすめではありません。

目視の仕方ですが、いろんな方向に傾けて=光の当たり方を変えて釉薬の表面を見ます。修復しているところと、オリジナルの釉薬は、あくまでも似せたもので、同じ物質ではありません…なので微少な差異があり光り方が違います。

2) リサーチ

欠損箇所が広範囲に渡る場合、形、絵柄や模様などを復元するときは、オリジナルに残されている部分をヒントに再現します。それだけでは不十分な時は、似たような作品をリサーチして、それに基づいて復元していきます。お客様の手元に資料がある場合や希望がある場合はそれに沿ってとなりますが、 ない場合は図鑑、オークションカタログ、最近はネットで画像の検索もできるのでとても便利です。

例えば、マイセンの人形のようなもので、手に持っているものが無くなっているとします。それが何であるか…ネットで検索した画像だけですと、それが間違って修復されている可能性もあります。間違ったものをコピーしてしまうことを避けるためにも、いくつか比較検討すること。もしくは信憑性のあるものを参考にする必要があります。

作品によっては、修復後に必要とされる条件が違う場合、例えば耐熱にして欲しい。安全性を優先にして欲しい〜という実用的な要望。出来る限り修復痕のこさないで綺麗にして欲しい〜という美的な要望。修復部分は最小限にして欲しい〜という文化財保存的な要望。いろいろなニーズがあります。特殊な材料が必要となってくる場合は材料のリサーチをします。修復に使用する材料は、日々進歩しているように思います。今までの経験に基づき、修復に最適な材料とともに、新たな材料の探究にも力を入れています。

3)クリーニング(洗浄)

陶磁器を修復する場合、クリーニングがとても大事になってきます。汚れがついたまま次のステップに進めてしまいますと、「美しい」修復はできません。金継ぎなどですと汚れと取るというステップは重要視されていないようで、確かに仕上がりにほとんど影響がありませんが(漆じたいもこげ茶色で最終的に金色になるので)色合わせする場合、例えば白地のものは少しでも汚れ、シミが残っていると、ステップを重ねるごとにその汚れがより目立ってきてしまいます。

修復・保存の世界では、「ダメージを受けている状態をそれ以上悪くしない」ということが大前提となります。クリーニングをするときに、薬品を使うことも多いのですが、陶磁器にとって、ジェントル(やさしい)方法から順番に段階を上げてクリーニングしていきます。一番やさしい方法が「水」となります。普段食器もお水をつかって洗うと思いますが。お水が一番やさしくて、焼き物に影響がありません。具体的な方法は「自分で直す」ページで紹介したいとおもいますが、ここではプロの道具として一番よく使うものをご紹介します。それはスチームクリーナーです。最近はテレビショッピングや通販などでよく見かけるかとおもいますが、水を熱して水蒸気の圧を噴射して汚れを除去する機械です。工房では陶磁器に水蒸気を当てやすい専用のものを使用しています。歯科技工士さんも使っている手元で操作しやすいタイプのものです。工房いにしへではこだわりまして、スチームクリーナーを海外から輸入しています。これは専門学校時代から現在に至るまで使ってきたものです。

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