まず、割れたての方にアドバイスですが、破片の断面を指で触らないようにお願いします。ガラスを指で触った時、指紋がつくのがはっきりわかりますが、それと同じことが触れた破断面にも起こっています。これから先の工程で、接着剤を使うのですが、接着剤は大概「脂」と相性がよろしくないです。変色・変質の原因になります。強度も落ちます(余分なものがついて接着を妨げる)断面をさわらないように破片を扱うことが大切です。どうしても触れずには対処できない場合は、手をよく洗っておくことで、かなり脂分や汚れの付着を防ぐことができます。破片が小さい場合などは、ピンセットを使って破片を取り扱うと良いでしょう。
割れてしまって長期間放置していた破片の断面には埃がついてしまっている可能性があります。さらに、空気中に漂っている汚れなども付着している可能性があります。生活の場ですと、キッチンから流れてきた油煙やたばこのヤニなど。目に見えないレベルかもしれませんが、こういうものを除去しておくことは大切です。
では具体的にどのような方法があるかを挙げてみます。
(1)水~ぬるま湯
これは当たり前すぎて、なんだ~と思われるかもしれませんが、クリーニングの1つの大切な方法として挙げておきます。水より温度を上げたほうが、水の分子が活発に動き、汚れを落とす作用がより働くようになります。では熱湯はといいますと、陶磁器にはあまりよろしくありません。熱を加えると部分により膨張率が違うので、変な引っ張りの力がかかった場合ヒビが入ってしまいます。人間の手で触れられる温度くらいのものを使うのが安全かと思います。
ぬるま湯で、ちょっと固めのスポンジ、または歯ブラシでブラッシングしてあげます。
デリケートなものは、キズがつくかどうかを目立たないところでチェックしてください。
(2)アセトン
除光液の成分として表示されていることがあるので、ご存じの方も多い有機溶剤です。薬局、ホームセンター、東急ハンズ(すべてのではなく一部)などで購入できます。薬局は取り扱いのないところも多いようです。取り扱いがあってもお取り寄せとなることがほとんどです。
軽い汚れでしたら、綿棒やカットコットンに含ませて汚れを拭き取ります。小さなプラスチックカップ、または小皿があれば、それにアセトンを入れて綿棒に含ませると効率が良いです。
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指で触ってしまった破片、埃っぽい破片は、水洗い~アセトンでクリーニングすれば
OKです。ケミカルな力でじわじわと汚れを除去します。
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(3)バイオテックス溶液
バイオテックスはイギリスのつけおき用洗剤。他の洗剤で代用してもOKですが(以前、アタックのバイオテックス入りというのをお勧めしておりましたが、若干スペックが変わったようで、かせてしまう=釉薬がカサカサになることが発生)経験的に安心なのはやはりバイオテックス。ブリーチ(漂白剤)がはいっていないので陶磁器の肌にやさしいです。
水500mlでしたら10グラム程度をぬるま湯でとかすと水より効果的です。これに24時間、陶磁器をつけます。よくすすぐ。真水に24時間(溶液につけた時間だけ)つけておきます。
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(4) ペンキ剥がし剤
古い修復部分、接着剤を剥がすのに有効です。ホームセンターのペンキコーナーに行くと、その横にペンキ剥がし剤が陳列されています。
これを除去したい部分に塗布します。塗布して3〜40秒置いてください。薬品がじわじわと樹脂(ペイントや接着剤)を溶かしてくれます。焼き物(陶磁器)でしたら、土器以外はほとんど大丈夫です。溶けたら…それは焼き物でなかったということです。(焼き物っぽいプラスチックなど)
上絵付け、金彩などデリケートな部分に塗布すると剥がれてしまうことがあるので、パッチテストしてください。
一度塗布するだけでOKということはほとんどありません。塗布を何回か繰り返さなければいけないことがほとんどです。
塗布する → 3〜40秒待つ(5分でも10分でもOKです) → 塗布したものを除去する(水洗い or ティッシュオフ) → (乾いた表面に)塗布する。
を取れるまで繰り返します。
メーカーからいろんなものが出ていますが…一番オススメはこちら ▼▼▼
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(5)スチームクリーナー
工房では要となる重要な方法です。薬品ではなく水を使用するので陶磁器にとてもやさしい洗浄方法です。
軽い汚れはスチームクリーナーだけでも取れますし、ひどい汚れは薬品とスチームのコンビネーションで除去していきます。スチームクリーナーがあることにより、洗浄の時間がかなり短縮できます。
工房では、プロ仕様のスチームクリーナーを使用しております。歯科技工士さんが使っているタイプです。スチームクリーナーはテレビ通販やホームセンターなどでもよく見かけるようになったのでご存じの方も増えましたが、陶磁器を洗浄するときは、片手にハンドルを握り、片手に陶磁器を持つ必要があります。どんな風にというのはYoutubeにアップしましたのでご覧くださいませ。
▲▲▲ こちらが佐野おススメの簡易版スチームクリーナーです(アイリスオーヤマ)いろいろなタイプが出ていますが、こちらが陶磁器修復には一番良いです。
型番はSTM-304KC もしくは STM-304N-W
タンクの容量が300mlとなっております。
6000円弱でAmazon,楽天で購入できます。壊れやすい家電なのでアフターの対応が良いところで購入するのが良いかと思います。
タンク容量が1リットルで、一回り大きいタイプもおすすめ!
STM-410E
価格は1万円弱。STM-304に比べるとスペースを取りますが、連続でスチームクリーナを使いたい人にはお勧めです。
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以上が修復・保存のプロが実践する材料と技法です。
文化財でなければ大丈夫かな…という方法もご紹介しておきます。
紅茶、コーヒーなど・・・器を実際に使用していると、よごれ、シミ、茶渋が気になりますよね。また、焼きが甘くてしみができてしまっている・・・。ヘアラインがよごれで目立つ等。陶磁器ファンのみなさんにとって、もうすこしきれいになるといいのにな~という場面に出くわすことが多いでしょう。実際、クリーニングしてやることで、陶磁器がみちがえるようによくなります。
アンティークや骨董のためには、なるべくジェントルな方法でクリーニングしてやることが必要です。そこで、キッチンハイターなどの漂白剤以外にどんな方法があるか・・陶磁器にやさしい方法から順番に挙げていきます
入れ歯洗浄剤
タブレットで、じゅわ~っと泡のでるタイプの入れ歯洗浄剤を使います。洗面器1杯の水にたいして、2~3個のタブレットをいれ、陶磁器をつけておきます。(※きちんとした修復ではこの方法はつかいません。)
サンドペーパー(茶渋)
かなり強引なやり方ですが・・・茶渋が層になって、こってりついているとき・・・紙やすり/サンドペーパーでこすりおとしてやっても有効。(どちらかというと裏技です。)耐水ペーパー、粒子の荒いものはNG!釉薬にキズがつきます。粒子が細かいもので釉薬にこすり傷がつかないもの。工房いにしへがおススメする紙ヤスリ#240~#320。(国内外のあらゆる紙やすりをお試しし、陶磁器の釉薬に傷がつきにくいものは今のところこれしかありません。)
漂白剤
漂白剤はボーンチャイナ、磁器、焼きのしっかりしたものならお使いになっても・・・大丈夫です。(ただし、大切なもの、文化財レベルのものはやめましょう。)この場合、カップの内側だったら、全体をつけ込むのではなく、内側だけつける。つけおきの時間は最短になるよう注意する等・・・なるべくつけない工夫をします。