カラーフィルは文化財を保存する最適な技法で、修復部分を最小限に抑え、オリジナルを最大限に生かします。
工房いにしへでは、カラーフィルという英国で発達した技法を使って、主に陶磁器(陶器、磁器)を専門に修復しています。関連する素材(ガラス、七宝、象牙、プラスチック、樹脂、石、青銅器)も修復することができます。
金継ぎはご存じの方も多くなりましたが、金継ぎは修復した部分が金色になり、もともとあった姿とは違った風情になります。カラーフィルは限りなくオリジナルに近い色と質感にするため、元の姿が蘇ります。
修復に使用する素材は室温で固まる材料を使うため、焼成などはしておりません。古いものはもちろん新しい陶磁器は再焼成により、ダメージを受けることがあります。(焼き物は高温で焼くので)
修復技法を大きく分けると、「金継ぎ」(直したところが「金色」になる)と、色をあわせて直す「共継ぎ」「共直し」になります。工房いにしへは「共継ぎ」「共直し」を専門としております。
工房いにしへのこだわりは、カラーフィルで、できる限りエアブラシを使わないことです。他では、エアブラシを使って仕上げることがほとんどです(吹き付け)エアブラシのデメリットは、ペイントを噴霧するために、ペイントが広がってしまうことです。例えば5ミリの範囲をエアブラシで吹き付けると、どうがんばっても4センチぐらいに広がってしまいます。カラーフィルは5ミリの範囲でしたら5-6ミリに修復範囲をとどめることができます。
逆に、エアブラシのメリットは仕上がりでしょうか。カラーフィルは限りなく色と質感をあわせますが、その部分は陶磁器とは違う性質のもので補うので、厳密にいえば境目が残ります。エアブラシを使うとその境目すらわからなくすることは可能です。
ただ、ペイントの部分は陶磁器オリジナルではなくなります。吹き付けのペイントでロスする範囲が広いのと、エアブラシも境目がでますので、キリのいいところまで、例えば お皿でしたら表面全面をエアブラシしてしまっているようなケースもあります…境目をなくすために、オリジナルをなくしてしまっている残念な例です。色はあっていますが、それはもう陶磁器ではありません。
工房いにしへは、できる限りカラーフィルで元の姿に蘇らせ、陶磁器本来の姿=オリジナルを尊重した修復を心がけています。
特に文化財ですが、修復するだけでなく、再修復の必要性がでたときに、不都合がないように考えて、修復の材料や技法を選定しなければいけません。再修復するときにダメージなく元の状態に戻し修復することができる。この考えを「可逆性」といい、陶磁器に限らす、修復の世界では最優先としなければいけない事項としています。
陶磁器の性質ですが、他の素材、たとえば、紙、布、木などと比べて、極めて安定した性質で、何千年、何万年という時を超えることができます。それに対して残念ながら今の修復に使用する材料は30年~50年という寿命があります。ただ、30年後にはよりよい材料と技法が開発されている可能性は十分にあります。そのときを想定して、今の最善の材料と技法で修復し、未来に引き継いでいくことが何より大切なのです。
よりよい修復をお客様に提供できるよう、修復技術の向上、工程や材料の研究、日々努力を重ねております。